大学発の技術で世界中の水を安全できれいに
信州大学アクア・イノベーション拠点は、多様な水源から生活用水を造り出し循環させることで、地球上の誰もが十分な水と共に安全で健康的な生活を送れる水循環社会の実現を目指しています。科学技術振興機構のCOIプログラム令和4年度加速支援に採択され、本拠点で開発したカーボンナノチューブ/ポリアミド逆浸透膜や無機結晶吸着材料などを世界の物理的・経済的な渇水地域で実証検証中です。
サウジアラビア王国の実海水にてCNT/PA複合RO膜を実証検証
ナノカーボンRO膜は、北九州市実海水パイロット試験にて、基本特性の大幅な向上(透水性、ロバスト性)による造水コスト低減とメンテナンス性向上を確認済です。サウジアラビアは、生産・消費の観点で世界一の海水淡水化王国であり、現地の世界最大の海水淡水化公社SWCC(Saline Water Conversion Corporation)との連携で、過酷(水温、濁質、塩濃度)なアラビア湾実海水で実証検証中です。
超低圧高透水性CNF/PA逆浸透(RO)膜によるPOU浄水システムを中国・東南アジアで検証
POU(Point of Use)や浄水器用として、セルロースナノファイバー(CNF)/ PA複合逆浸透膜モジュールを開発しました。NFS「ANSI-158」認証を国内初取得しています。このRO膜(高い透水性)の浄水器は、電源不要で水道水圧程度の超低圧にてオフグリッドで使用でき、脱ペットボトル化、インフラが弱い地域、災害時での利用など幅広い貢献も期待できます。中国・ベトナム・タイなどの現地水源での実験・ビジネス検証中です。
ナノカーボンやセルロースナノファイバーを用いた高機能逆浸透(RO)膜技術
「ナノカーボン逆浸透(RO)膜」は、カーボンナノチューブ(CNT)を従来の高分子膜に複合させた膜で、脱塩・透水性に加えて耐ファウリング(汚濁)性や耐塩素性等のロバスト(頑強)性に優れた高機能な分離膜です。大学内の大型製膜装置で70m長を製膜でき、モジュール作製装置、各種応用のための評価装置により、一貫した推進を実施しています。
※セルロースナノファイバー(CNF)含有のRO膜も開発(NFS規格の取得)
タンザニア国での安全安心なコミュニティー規模給水装置
東部アフリカ村落部では、多数の住民が土壌由来のフッ素に汚染された水の飲用を余儀なくされており、骨フッ素症等の健康被害が確認されています。その地域の一つ、タンザニア国レマンダ村に、信州大学が開発したフッ素吸着材を搭載した300名規模の給水装置を設置し、安全な水の給水実証試験を開始しています。浄水後の水のフッ素濃度を現地住民がスマートフォンで可視化できるフッ素センサーを開発し、運用の現地化を進めます。
何度も再生利用できる水処理用フッ化物イオン吸着材
電力等の基本的なインフラが未整備な地域にて、高濃度フッ素を含む水を安全・安心な飲用水に処理するため、信大クリスタル※1の一種 アニオン吸着結晶を開発しました。タンザニアにて、フッ素濃度約20 ppmの水をWHO基準(1.5 ppm以下)を満たす水準まで浄化できことを実証しました。さらに、発展途上国でも受容可能なコストとするため、吸着材を6回以上再生利用可能なことを確認済みです。
※1:フラックス法で育成した結晶材料の総称
SDGsに貢献する無機結晶材料「信大クリスタル」
信州大学が世界を先導する「フラックス法」は、結晶の形を自在に制御し、求める機能を引き出すことができる無機結晶育成技術です。フラックス法により育成した高機能な無機結晶材料等を「信大クリスタル」と名付け、COI加速支援事業ではアフリカの水環境改善に取り組みます。その他にも、水素製造用光触媒、リチウムイオン二次電池の正・負極材料、電子デバイス材料、バイオマテリアル等へ様々な信大クリスタルを展開しています。
アクア・ネクサスカーボン-プラットフォーム(AxC-PF)
アクア・イノベーション拠点を中心に蓄積した研究成果・知識を社会に展開する、産官学民から構成する会員制の基盤組織(2019年設立)です。講演会・懇談会、HP・レター配信、PR活動の情報交換・交流を行いながら調査・議論を行い、共同研究・協創の創出を目指したソリューション創造型研究の支援活動を行っています。
【会員募集中】http://www.shinshu-u.ac.jp/coi/AxC-pf/
【開催時間】10:15-11:45 事前登録 無料 満席
信州大学
特別栄誉教授
遠藤 守信氏
【講演者プロフィール】
信州大学特別栄誉教授、1990年より信州大学工学部教授として新炭素体やリチウムイオン電池など先端新炭素体の電子物性とその応用を主対象として研究展開している。炭素に関する研究成果が評価され、2004年のAmerican Carbon Society Medal、2012年の国際セラミックス賞、2017年のカナダ・ケベック州立大学名誉博士号、2020年の春の叙勲 瑞宝中綬章など国内外で受賞。
【講演概要】
UNICEFによれば汚染水で命を落とす子供は年間30万にもなり、家で手を洗えない30億人が様々な感染症の危機にさらされている。また世界では水道の普及が十分ではない国があり、さらに水道水を直接飲用できるのはわずか9ヶ国に過ぎない。先進国でも渇水や上水の汚染が報道されるように、飲料水問題は世界共通の喫緊の課題である。かかる水問題の解決策の一つに、POU(point of uses)用の逆浸透(RO)膜モジュールを用いた浄水システムがある。その場合、RO膜機能としてはオフ・グリッドで使える0.2~0.3MPa駆動が可能となるRO膜モジュールが要請される。ここではCOIプロジェクトでの海水淡水化用RO膜研究の成果を応用してPOU向けの極超低圧RO膜を開発した。ここではかかるRO膜モジュールについて、RO膜の構造と基本特性、動作メカニズム、モジュールの浄水性能と実装等について報告する。
信州大学
卓越教授
手嶋 勝弥氏
【講演者プロフィール】
2005年信州大学工学部助手・准教授を経て、2011年から教授(現:卓越教授)を務める。学長特別補佐と先鋭材料研究所長も兼務。MEXT地域イノベ・エコ事業やJST-CRESTなどの大型プロジェクトを主宰し,フラックス法による結晶材料の創製から社会実装までを実現している。これまでの論文・著書・解説は300を優に越え、出願/成立特許は100件以上。2022年1月に設立した信大発ベンチャー“ヴェルヌクリスタル(株)”のCTOを務める。
【講演概要】
タンザニア・ケニアなどの東アフリカでは,フッ素が多量に溶解した地下水の飲用による健康被害が深刻な問題となっている。我々は,フラックス法で作製した結晶材料を“信大クリスタル”と名付け,環境・エネルギーなどのさまざまな分野で活用している。特に,重金属イオン(陽イオン)やフッ化物イオン・硝酸/亜硝酸イオン(陰イオン)などの有害イオンを水中から高効率に除去する無機イオン交換結晶の創製に成功している。この信大クリスタルは,高イオン選択性,高イオン交換容量,高速イオン交換性などの優れた性能をもつため,きわめて簡便な浄水デバイス/システムを提案できる。国内では,浄水材料としての活用とともに,信大クリスタルで浄水した特徴的な地産水を用い,醸造分野をはじめ,さまざまな分野で製品を上市している。東アフリカの活動では,信大クリスタル浄水材料を搭載した小規模・緩速ろ過システムを設計・設置し,FSを開始している。
下記情報は来場者から出展者への事前アポイント・問合せを目的に公開しています。
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信州大学アクア・イノベーション拠点
信州大学アクア・イノベーション拠点